言葉の不思議―言語発達と障害

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家族で吃音と取り組む

「わ、わ、わ、わたしは」や、「この、この、このように」のように、同じ音や単語を繰り返す。
「そーーーーーれから」のように、ひとつの音を長く伸ばす。
「(ボ)・・・・・・・・ボール」のように、最初の音に詰まって、なかなか言葉が出てこない。

こうした症状は吃音(どもり)といわれていますが、吃音の症状を一時的になくすことができることをご存知でしょうか。たとえば、アメリカには吃音のある歌手や俳優が何人もいますが、こうした人たちは歌ったり演技をしているときにはどもることはないんですね。これはどうしてかというと、歌を歌うときや演技をするときは、言葉そのものよりも言葉のリズムやイントネーション、メロディといった要素に注意がいくからなのです。言語活動は、一般に脳の左半球がコントロールしますが、リズムやイントネーションなどは脳の右半球が担当しています。ですから、普通の会話も歌を歌ったり演技をするときも媒体になるのは「言葉」ですが、それを操る脳の部位が違うのです。

でも、歌手や俳優の吃音が一時的に消える理由は、それだけではありません。こうした人たちの話を聞いていると、「歌っているときは(演技をしているときは)別の自分になれる。自分が解放される」といった心理も背後にあることがわかります。それだけ、吃音の出方には精神的なものが大きく関係しているといえるのです。

ですから、吃音は本人1人の問題ではなく、家族全員で取り組むもの。そういう考え方が、アメリカでは定着しています。特に幼い子どもの場合は、本人以上に家族の取り組みが求められ、カウンセリングも家族に対して積極的に行われます。子どもの吃音症状を左右するのは、子どもを育てている親だからです。

オバマ政権を支えるバイデン副大統領ですが、20歳すぎまで吃音に悩まされていたのだそうです。彼は吃音のために同級生にからかわれたり、変なあだなをつけられました。それがとても嫌で、なんとか吃音を直そうと、鏡の前で詩の朗読の練習を続けたそうです。そんな彼を深く傷つけた事件がありました。それはバイデン副大統領が中学1年生(7年生)のときです。一人の教師が彼の吃音を真似して、同級生の前で「バ、バ、バ、バ、バイデン」とからかったのです。

その話をバイデンから聞いた母親は、立ち上がりました。校長とその教師に会いに行き、「わたしの息子の吃音をからかうような真似をしたら、今度はあなたの頭からそのボネット(カトリック系の学校だったので、教師は修道女がつとめていました)を引きはがしますからね!」と言い放ったそうです。

母親の毅然とした態度、息子の吃音に対する深い理解が、バイデン副大統領の吃音克服を支えたのは、間違いありません。バイデン副大統領自身も、「自分が吃音を克服できたのも、両親のおかげ」とはっきり言っています。

もちろん、誰もがバイデン副大統領のように吃音を克服し、滑らかな話し方ができるようになるわけではありませんが、家族の理解と協力によって吃音症状が大きく改善することは、実際によくあることなのです。

アメリカには、ニュースキャスターやコメンテーターなど、「話すこと」を職業にしている吃音者が少なくありません。話に熱が入ると、"I, I, I, I don't think....."のように、はっきりと吃音症状が出ることもあります。なかには10~15秒に1回の割合で吃音が出るコメンテーターもいます。それでも、話の内容が耳を傾けるに値するものであれば、吃音そのものはさほど気になりません。

「話すこと」を職業にしている30代の男性は、根っからの話好きで、人と接することが大好きです。ですから、自分の吃音に対してもほとんどコンプレックスは感じていません。それでも、いまだに父親と話すときだけは、極度に緊張してしまい、そのためにひどくどもってしまうそうです。なぜでしょうか。それは、子どものとき父親に吃音のことをひどく叱られた記憶があるからです。積極的で社交的な彼であっても、自分の父親の前ではどもりを止められない。それほど、家族に理解してもらえなかったことが大きな影を落としているわけです。

長くなりましたが、吃音は本人1人の問題ではないこと、家族全員で取り組むべきものであることを、もう一度強調しておきたいと思います。
# by ksjasmine | 2009-09-26 21:02 | コミュニケーションと脳 | Trackback | Comments(2)

バイリンガルー子どもとおとなの違い

バイリンガルに関する研究はさまざまな角度から進められていますが、そのひとつに、脳の血流動態反応によってその秘密を探ろうという研究があります。"Cognitive Science"という学術誌の2009年6月号に掲載されていた記事"Lexical Organization and Competition in First and Second Languages: Computational and Neural mechanisms"は、fMRI(functional magnetic resonance imaging)を使って、2つの言語を耳にしたときどんな反応を示すかを脳の血流の動きから確認する研究など、とても興味深いものでした。その全てをここで紹介することはできないので、「早期継起型バイリンガルと後期継起型バイリンガル:特に子どもとおとなの違い」に絞ってお話したいと思います。

2つの言語を同時期に獲得するのは同時型バイリンガルといわれます。これは、両親ともにバイリンガルであったり、父親が英語、母親が日本語で話しかける環境で育ったり、という場合です。それに対して継起型というのは、まず第一言語を獲得し、続いて第二言語を習得するタイプのバイリンガルです。さらにこのタイプは、第二言語を習得し始めた年齢によって早期継起型と後期継起型に分かれます。一般に、3歳前後で第二言語との接触を始めるのが早期で、それ以降が後期ともいわれますが、この時期は厳密なものではありません。

上記の研究は、同じ継起型でも、獲得時期(早期か後期か)によって言語活動に関わる脳の部位が異なることを突き止めました。試験の対象になったのは、早期継起型バイリンガルの子と、後期継起型バイリンガルの子です。

まず、語彙の発達をみてみましょう。早期継起型の子の脳内マップは、広い海=第一言語に、大きな島=第二言語がぽっかり浮いています。それに対して、後期継起型の子は、海のあちこちに大小の島が散らばっています。つまり、早い段階で第二言語を習得した子は、第二言語の語彙を効率よくひとまとめにできますが、遅めに習得した子は第二言語の語彙をそこまで効率的にはまとめられない、ということになります。

これは、脳の可塑性と、言語獲得の臨界期(注)とも関係します。脳の可塑性がピークを迎えるのは2~3歳。その後も脳に変化を引き起こすことは十分可能ですが、効率はピーク時期よりも悪くなります。つまり、効率があまりよくない時期(後期継起型)に第二言語を獲得すると、脳に最適な変化をおこすことができなくて、整理整頓されていない引き出しのようになってしまうわけです。

(注)脳の可塑性に注目する学者の間では、臨界期(上限時期)ではなく敏感期(最適な時期)という表現が使われます。わたしも個人的には敏感期のほうが好きです。

次に、語彙(意味をもつ言葉)の発達と、音韻・プロソディ(言葉を構成する音、リズム、強勢など)の発達の違いに焦点を当ててみましょう。いままでの研究結果から、語彙(意味)の処理を担当する脳の部位は、音韻・プロソディの処理をおこなう部位と違うことがわかっています。おおざっぱにいえば、音韻処理は左半球の前頭葉の下部と側頭葉の上部、イントネーションや声の調子の処理は、右半球の前頭葉下部と側頭葉が担当します。それに対して、語彙(意味)の処理は左半球側頭葉の中・下部が大きな役割を果たしています。

あまり専門的な話になると面白くないので、このあたりで止めておきましょう。

では、今日のメインテーマ、子どもとおとなの第二言語獲得はどのように違うかについてお話しましょう。乳幼児が言葉を覚えるときは、まずリズムやイントネーションに反応し、次に音韻、そして最後に意味、という発達の流れをたどります。赤ちゃんがお母さんの言葉をオオム返しして、「ああ、この子はわたしの言っていることがわかるのね!」と大喜びしたのもつかの間、実は言葉の意味はわかっていなかった、ということがよくありますね。赤ちゃんはまず耳に入ってきた音に反応してそこから言葉を覚え、それに意味を添付するのはもっと後になってからなのです。幼い子が第二言語を習い始めたとき、言葉の意味はよくわからないまま音を真似するということがよくあるのも、この発達の流れにそっていますね。

それに対して、おとなの場合は子どもと同じ流れをたどることはできません。なぜなら、第一言語の脳内マップがしっかり出来上がっていて、脳にまったく新しいパターンを再学習させるのは容易ではないからです。ですから、おとなの場合は子どもとは違って、音韻もプロソディも意味も、すべて同時進行的に獲得していきます。というよりむしろ、意味処理能力に大きく頼ることになるので、その分どうしても発音面ではかなりの努力が要求されるのです。人間の脳は、意味のある言葉を耳にすると、音韻やプロソディの処理よりも意味理解の処理を優先させるからです。

さらに加えて、おとなの場合は言語適性も関係するし、右半球の働きが強い人はきれいな発音を身につけやすい(優れた歌手が外国語の歌をまるでネイティブのような発音で歌うのも、その一例ですね)など、個人差も大きく関わってきます。

最後に。この記事を書いたのは、早期バイリンガル教育を勧めるのが目的ではないことを明記しておきます。家庭のさまざまな事情から(母国を離れての生活、夫婦の母国語が異なるなど)、子どもをバイリンガルに育てることが大きな意味を持つ場合には、こうしたバイリンガルと言語発達の知識をおおいに役立ててほしいと思います。
# by ksjasmine | 2009-09-13 00:45 | コミュニケーションと脳 | Trackback | Comments(0)

アメリカのSLP事情-統計より

SLPを認定する民間機関、アメリカ言語聴覚士学会(American Speech-Language and Hearing Association: ASHA)の統計資料(2008年)から、アメリカのSLP事情を探ってみました。以下は、2008年度の状況です。

アメリカ全国には有資格SLP(CCC-SLP)が11万5千人あまりいます。

性別でみると、女性95.8%に対し、男性は4.2%。完全に、女の園ですね!

地域別には、ニューヨーク州のSLP人口が一番多くて約1万1千400人。2番目はカリフォルニア州でおよそ8千700人。3番目はテキサス州で7千700人あまりとなっています。そして4番目はフロリダ州の6千500人、5番目はイリノイ州の約6千人、と続きます。

人種構成はどうでしょう。統計を見る限り、白人が圧倒的に多くて93.3%。ついでラティーノが3.5%、黒人が3.0%、アジア系は1.8%で、アメリカン・インディアン系は0.3%となっています。その他、複数の人種にまたがる人も1.5%います。

年齢は幅が広く、34歳以下と45~54歳がそれぞれ約25%。一番多い年齢層は35~44歳。65歳以上も3.7%います。

職場別にみてみましょう。まずは大きく分けて、教育系、医療系、その他の3つ。アメリカの場合、日本と違って教育系で働くSLPが多く、60%近くにのぼります。小学校勤務が25%、プリスクールは9%、特殊学校は2%あまりとなっています。

医療系は35.6%で、そのうち病院は14%、長期療養型医療施設(高度看護施設)は7%。家庭訪問ケアは4.6%となっています。わたしが最初に勤めた職場、ECI(乳幼児早期介入プログラム)は、ASHAの統計ではその他に分類されるようですね。その他はぜんぶで5.6%です。

わたしは9月中旬から長期療養型医療施設に勤務することになりました。ECIとは職場環境はもちろん、対象人口もセラピーの内容もまったく異なるので、すべてが新しい経験。心を真っ白にして、また一からの再出発です!
# by ksjasmine | 2009-09-04 01:52 | アメリカの言語病理士(SLP) | Trackback | Comments(0)

小さい子の頭の中をのぞいてみると

とても面白いオンライン記事を見つけました。こちらです→"Inside the baby mind"

わたしが特に興味をもったのは記事の後半部分、脳の前頭前野の働きに関する箇所でした。前頭前野には遂行機能あるいは実行機能(英語ではexecutive function)といわれる機能があります。これは簡単にいうと、そのときの状況に応じて自分の行動や思考を柔軟に切り替える能力で、標準的には3~5歳の間に発達する能力といわれています。わたしが遂行機能について知ったのは、大学院時代に神経性コミュニケーション障害のクラスを履修したときでした。そこで、脳卒中や交通事故などで脳の前頭葉にダメージを受けた人は、この遂行機能がうまく働かなくなる、ということを学びました。

さて、この遂行機能が十分に発達していない1~2歳児の頭の中は、どうなっているのでしょうか。この年齢の子の脳は、おとなにくらべて活動を抑制する神経伝達物質が大変少ないので、入ってくる情報にうまくフィルターをかけることができません。おとなだったらほぼ自動的に無関係・不要な情報を排除できるところ、1~2歳児は見たもの聞いたものはすべて、頭の中に入ってくるままにしているわけです。上にリンクした記事中にこんなたとえが出ていました。おとなの注意力はスポットライトのようなものに対して、小さい子の場合は、周囲全体を広く照らすちょうちんのようなものだ、ということです。

ですから、小さい子が「この写真を見てごらん」と言われると、その子の注意は写真にうつっている人だけでなく、写真のフレームの模様にまで向けられます。世の中のことがまだよくわかっていないこの年齢の子どもにとっては、何が主で何が枝葉末節か判断できず、そのために入ってくる情報は全部そのまま受け入れてしまいます。それによって時々頭が洪水状態になってパニックをおこしてしまうこともあるわけですね。

主の部分と枝葉末節との区別ができない。入ってくる情報が洪水のように頭の中にあふれ、不要な情報をシャットアウトできないためにパニックをおこす。

こんなふうにまとめてみると、自閉症の子どもの症状と共通することに気づきませんか。そうなんです、自閉症の子ども達の多くは、この遂行機能が未発達なのです。また、自閉症ほどではありませんが、ADHDやLDのある子ども達にも、遂行機能がうまく働いていない様子がみうけられるといいます。

遂行機能の発達を促す訓練としては、遂行機能-活動を始める、活動を抑制する、ひとつの活動・状況から別の活動・状況へと移る、計画を立てる、考えをまとめる、自分の言動をモニターする、感情をコントロールする、作業記憶を上手に活用する-などを高める活動がよいとされています。

上にも記したように、標準的な発達をたどっている子は3~5歳の間に遂行機能が発達します。この間に、さまざまな経験(失敗も含めて)を積むと、それだけ心も頭も柔軟になり、応用力も身につきます。それが、高い遂行機能につながっていくわけですね。

自閉症の子の遂行機能を高めることに焦点を当てたセラピーに関する情報は、残念ながらわたしの手元にはありません。ですが、とても興味のある分野なので、これからも自分なりに調査を続けていこうと思っています。もし何か有益な情報がありましたら、お知らせいただければ大変嬉しいです。
# by ksjasmine | 2009-08-11 06:16 | 子どもの言語発達 | Trackback | Comments(2)

自閉症の子の脳内連携プレーを改善するには

少し前に「自閉症と遺伝子変異」という記事を書きましたが、その後も自閉症と脳の働きについて調べていたところ、自閉症の諸症状は脳の調整(連携)機能が弱いために起こるということを、再確認しました。上の記事にも書いたように、脳の構造自体には異常はないけれど、各部位をつなぐ神経回路にトラブルが生じて連携できないために、自閉症特有の症状が現れます。脳内でのコミュニケーションがうまくいかないので、それぞれの部位はより独立した存在になり、協調性を欠くようになります。そして、ある部位が他の部位より強くなるので、たとえば言葉は話せないけれど、絵や音楽方面で並外れた才能を発揮する子が出てくるわけです。

そこにだけ注目すると、「言葉が話せないのは言語中枢のある左半球が弱いせいで、絵や音楽に秀でているのは右半球が強いからだ」と結論を出したくなるかもしれません。が、ちょっと待ってください。わたしが関わった自閉症の子のなかにも、確かに言葉は拙いけれど絵が抜群に上手い子、踊りが得意な子が何人もいました。が、この子達に共通しているのは、「木を見て森を見ず」(英語では"unable to see the forest for the trees"といいます)的なところで、これは脳の右半球が関係するものなのです。

事故などで右半球を損傷した人は、物事の軽重が判断できなくなり、何が主で何が枝葉末節かも区別がつかなくなることがあります。それと同じことが自閉症の子にもよく見られるということは、この点に関しては右半球がうまく機能していないからと考えられます。ですから、単純に右半球のほうが強いとは言えないでしょう。

では、脳内連携プレーを改善するには、どうしたらいいでしょうか。わたしもこの答を知りたくて、ネットをあちこちさまよいました。そして見つけたひとつの答は、「さまざまな部位がお互いもっと力を合わせて働けるように、個人プレーではなくチームプレーができるように、働きかけること」というものでした。これは考えてみれば基本的なことです。でも、わたしは自閉症の子の症状ひとつひとつにとらわれて、それこそ「木を見て森を見ず」状態になっていたので、このような基本的なことに気づかずにいたのですね。

脳の各部位がチームプレーに徹するには、どんなセラピーが適しているでしょうか。それは、言葉を一つ一つ覚えさせることでもなく、文法規則を教えることでもなく、もっと大きなところ、つまり、コミュニケーションの練習をすることなのです。コミュニケーションを図るためには、言葉を聞いて理解し(左半球の側頭葉)、言葉で意思表示をし(左半球の前頭葉)、言外に込められた相手の意図や感情を汲み取る(右半球)といった作業が、ほぼ同時進行に行われる必要があります。コミュニケーションとは、まさに脳の各部位がお互い協調し合い、うまく連携プレーをしてはじめて成り立つものです。

コミュニケーションの手段は言葉だけではありません。言葉の出ていない子には、絵カードや文字盤を代わりに使うこともできます。ここで一番大事なのは、言葉そのものにこだわるのではなく、お互いにメッセージを伝え合う、という共同作業なのです。一方通行ではなく、相手がいて初めて成り立つコミュニケーションという作業を通して、協調性を欠いていた脳の各部位も、少しずつお互いの存在を認めあい、チームとして機能していこうというふうに、考えが変わっていくことでしょう。

自閉症の子が木だけでなく森も見られるようになるためには、一部にとらわれず全体を見据えたセラピーが必要なのかもしれません。
# by ksjasmine | 2009-08-09 07:16 | 子どもの言語障害 | Trackback | Comments(0)

言語活動と脳

言葉を聞いて理解したり話をしたりするために、脳は一生懸命働いています。今日は、脳のどの部分が言葉と大きく関わっているのかについて、お話してみたいと思います。

脳のなかで言語活動に関係する部位は、「言語中枢」と呼ばれています。言語中枢は、右利きの人は95%が脳の左半球にありますが、左利きの人は60~70%が左半球、15~20%は右半球、20%前後は両半球といわれています。言語中枢は機能によって、前頭葉のブローカ中枢と側頭葉のウェルニッケ中枢に分かれます。運動性言語中枢ともいわれるブローカ中枢の働きは、言葉を発したり文字を書いたりするときに活発になります。一方、ウェルニッケ中枢は感覚性言語中枢ともいわれ、話し言葉を聞いて理解するための機能があります(下の図を参考にしてみてください。Broca's area=ブローカ中枢、Wernicke's area=ウェルニッケ中枢)。

ただし、実際にはブローカ中枢とウェルニッケ中枢だけでなく、他の部位も言語活動に関わっていること、そして脳の機能局在についてもさまざまな説があることを、付け加えておきたいと思います。

さて次は、ブローカ中枢とウェルニッケ中枢に注目しながら、言語活動の流れを順に追っていきましょう。

言葉を聞いて理解する:
聴覚野を通じて入ってきた話し言葉は、記号化されたメッセージとしてウェルニッケ中枢に伝えられます。そこでは、構文規則に基づいて、メッセージにこめられた意味を分析します。と同時に、話者の意図(文字通りの意味なのか、それとも比ゆ的な意味なのか、など)も汲み取ります。そして、メッセージの意味が理解できたら、今度はそのメッセージに対してどのように反応すればよいか、他の部位に指示を与えます。

言葉を発する:
人が何かを話そうとするとき、まずはウェルニッケ中枢が話し言葉の元となる文章の組み立てを行います。そこで、音韻、構文、意味上の規則にあった文章を構成します。記号化された文章は、弓状束を経由してブローカ中枢に送り届けられます。ブローカ中枢は、発話のために必要な指示を運動皮質に送ります。その間、ウェルニッケ中枢は発話に関わる筋肉の動きを監視し、メッセージが正しく伝わっているかどうかをチェックします。

上にも書いたように、ブローカ中枢は話をしたり書いたりするための機能をもち、ウェルニッケ中枢は話を聞いて理解するための機能をもっていますが、実際には話すときも聞くときも、両方の中枢が見事な連携プレーを展開していることがわかりますね。ですから、どちらかの機能が欠けても、コミュニケーションはうまく成り立たないのです。それが失語症で、損失部位によってそれぞれブローカ失語症、ウェルニッケ失語症と呼ばれます。
# by ksjasmine | 2009-07-25 05:57 | コミュニケーションと脳 | Trackback | Comments(0)

自閉症と遺伝子変異

世界中の科学者たちが何十年も研究を続けているのに、なかなか原因が解明されない自閉症ですが、最近、少なくとも自閉症の15%は遺伝子変異と関係している、という研究成果が発表されました。

詳細はこちらです。

Autism Gene Discovered


また、こちらは、脳幹のニューロンの束を調整する青班核が正しく機能しないことが自閉症の原因になりうるのではないか、という考察です。

Scientists Propose New Theory of Autism


どちらの記事からも、遺伝子変異が深く関係していることがわかります。さらに、自閉症は脳構造の欠陥が原因ではないということも確認されました(後者の記事より)。つまり、自閉症の子の場合、脳の一部が欠けていたり構造に異常がみられたりするわけではありません。構造上の問題はないけれど、神経回路の一部がうまく機能せず情報の伝達が調整されないために、自閉症特有の症状が起きるのではないか、ということです。

脳の構造上の問題ではないとわかったことで、自閉症の治療にも明るい光が見えてきました、と今回の研究に関わっているマーク・メーラー博士は語っています。

こんなふうに少しでも新しい発見が発表されると、期待も膨らんできます。ただ、それが具体的なセラピーに結びつくのはいつ?研究室につめる科学者ではなく、現場で自閉症の人々と接する立場にあるわたしにとっては、はやる気持ちを抑えるのは難しいです。

脳の可塑性については、以前の記事で少しお話しました。先天性の病気や、脳卒中、交通事故などで、脳の構造が大きく変わってしまったり一部が欠損したりした人でも、失われた機能を取り戻すことができる、というお話でしたね。欠けてしまった脳の部位を復活させることはできませんが、その機能を他の部位が補うことは十分可能なのです。でも、そのためには、健全な部位に新しい機能を学習させなければいけません。適切な刺激を脳細胞に送り続け、それを強化するために、セラピーが行われるわけですね。

では、自閉症の人々のように、脳の構造には欠陥がない場合はどうでしょうか。遺伝子変異という部分に関しては、投薬などの治療が必要だと言われています。と同時に、セラピーによって欠損した調整機能を脳に新しく学習させることも大事なのではないか、と思います。ともあれ、科学者たちの発見が実際のセラピーに活かされる日が待ち遠しいです。
# by ksjasmine | 2009-06-28 23:18 | 子どもの言語障害 | Trackback | Comments(2)
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こんにちは、kayです。テキサス州ダラス近郊で、スピーチパソロジスト(SLP)として働いています。スピーチセラピーに関するお問い合わせは:lilijasmine@hotmail.com


by ksjasmine
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