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この間、病院で働いているSLPのAさんとお昼ごはんを食べながら、いろいろとおしゃべりしました。病院勤務の経験がないわたしは、病院でのセラピーのことが聞きたくてうずうず。Aさんは勉強熱心で働き者。なんでも器用にこなせそうな感じですが、それでも「病院では(以前は高度看護施設勤務でした)、医療についての知識が要求されるので、それが大変!」って言っていました。実は、家庭訪問セラピー(Home Health)でも、基本的な医療知識が欠かせないんです。
家庭訪問セラピーでのSLPは、ある意味、往診のお医者さん的存在です。患者さんにとっては、自分の体の状態をよくしてくれる専門家であり、時には患者さんの病状や薬のことについても、質問が飛び出したりします。ですから、家庭訪問セラピーのスタッフは、看護師に限らず、PT、OT、SLPも、基本的な医療知識を身につけるようなトレーニングを受けることになっています。それによって、患者さんの日々の状態の変化が病気のせいなのか、薬のせいなのか(新しい薬が加わったり、今までの薬を止めたりなど)、ある程度判断することができます。 心臓病、糖尿病、高血圧といった病気は、セラピーの対象となるもの(失語症、嚥下障害など)と直接かかわりがなくても、患者さんの体調には大きく影響しますから、それをモニターしなくてはいけません。当然、そういった病気の治療に使われている薬の知識も必要です。複数の病気を抱えている患者さん(家庭訪問セラピーの患者さんのほとんどは、5つ、6つも違う病気をもっています)の場合、それぞれの専門医から出された薬が、組み合わせによっては体に悪い影響を及ぼす可能性もありますから、一番最初の問診のとき(たいていはケースマネージャーである看護師が担当します)、正確な診断名と服用中の薬(栄養剤も合わせて)を漏れなくリストアップし、組み合わせで危ないものがないかどうかをチェックします。 わたしが担当した患者さんにも、2人ほど、病院から新しく出された薬のせいで体調が悪くなり、それによってセラピー対象の症状(1人は認知障害、もう1人は嚥下障害)が悪化した、というケースがありました。ですから、どんな薬がどんな副作用をもたらすか、知っておかないといけないんですね。まさに、薬は毒にもなるわけですね! *おまけ* さて、ここでクイズを出しましょう。ある患者さんのチャートを読んでいて、こんな長い言葉を見つけました。 Choledochocholedochostomy 読み方は「コレドココレドコストミー」です。 これは、どういう意味でしょう? というのが、クイズです。 正解は: 胆管胆管吻合 でした。 日本語の読み方は「たんかんたんかんふんごう」です。 これは肝移植の際に使われる胆道再建の方法です。 オンラインニュースを読んでいたら、こんな「今の時代にありえない!!!開いた口がふさがらない!!!」記事を見つけました。
「発達障害は親の愛情不足」 維新の会の条例案に批判 大阪維新の会:家庭教育支援条例案に批判続々 関係者は、発達障害についての知識がなさすぎます!これは本当にひどい!!!こんなことをするから、障害のある人に対する偏見がなくならないんです。なくならないどころか、助長するばかり。これでは、子どもの発達を支援してほしいと思っても、偏見や差別が怖くて専門家にもかかれない、というお父さんお母さんが増えても仕方ないでしょう。 あまりにも腹が立ったので、記事にしました。維新の会のメンバーに、猛省&謝罪してもらいたいです! アメリカでは最近とみに"Evidence Based Practice"の重要性が唱えられています。臨床結果に基づいた医療(セラピストの場合は療法)を提供するというのが大原則で、日本でも「根拠に基づいた医療」という形で定着しつつあるようです。
研究者による論文を読んだりセミナー・ワークショップなどに参加することで、最近の臨床の動向を知ることができますが、それでも「絶対これが正しい!」といえるほど、スピーチセラピーは白黒はっきりしたものではないんですね。以前、オーディオロジストを目指す学生さんがこう言っていました。 「最初はスピーチセラピーに興味があったんだけど、わたしは科学的根拠をもとに白黒はっきりさせるほうが好きだから、オーディオロジストになることにした。スピーチセラピーはオーディオロジーに比べるとグレーな部分が多くてやりにくそう。」 確かに、スピーチセラピーは、白黒はっきりさせられないところが結構あるなあ、と思います。 それでも、専門家としての責任上、臨床結果の分析はちゃんと行っているんですよ。 ただ、判断が難しいのは、専門家の間で意見が分かれるとき。 「この療法の効果が確認されました」という専門家と、「この療法の効果を報告する件数は限られている。よって、根拠に基づいた療法とは考えられない」という専門家とに分かれた場合、どっちに従うかは、最終的にはSLP本人が判断しなくちゃいけないんですよね。効果がない、とは断定できない(実際に効果があったケースもあるのだから)けど、でも効果が出た件数が少なすぎて、広く適用できる段階ではない、とも考えられるとしたら、うーん、どうしたらいいでしょう。 わたしのようにSLP歴が3年ちょっとと経験が浅い者には、判断はとても難しいです。もっとたくさんの文献を読んだり、先輩SLPの話を聞いたり、セミナーやワークショップに参加して、知識を増やし判断力を養っていかなくちゃいけないんですが~。 今、一番気になっているグレーの部分は、嚥下障害の患者さんへの療法で、1)NMES(Vital-Stim)の有効性(賛否両論、はっきり分かれています)と2)嚥下障害のためネクター・蜂蜜様の飲料をとっている患者さんへのセラピーに水道水を取り入れる(これまた支持派と反対派に分かれています)=Frazier water protocol →http://speech-language-pathology-audiology.advanceweb.com/Article/Frazier-Water-Protocol-1.aspxなんです。わたしが知っているSLPの間でも、賛成・反対に分かれています。わたし自身関わった患者さんのなかには、NMESで効果があった患者さんが1人いるし(とはいえ、5~6人の患者さんには効果が確認できなかったので、有効性は20%以下と低いですね・・・)、水飲みの科学的根拠は支持できると思うので、これも安全性を確認しながら(口腔ケア、認知能力など)実践しています。 自閉症セラピーも、議論の余地あるものが結構あります。これもまた、研究者の発表が出尽くしていないし、研究者・専門家の間で意見が分かれたりするためでしょう。 白黒はっきりしていないグレーゾーンだからといって、患者さんに不安を与えてはいけないけど、逆に患者さん・家族のなかにはインターネットなどで調べて、まだ根拠に基づいた療法として定着していない療法を希望される人もいて、そういうときはどこまで詳しく説明すればいいか、どうやったら納得してもらえるか、そのあたりが難しいなあ、と思ってしまいます。 日本の言語聴覚士のみなさん、アメリカのSLPさん、意見が分かれる療法、根拠に基づいた療法としてまだ定着していない療法については、どう判断されていますか? 昨日はものすごくむしゃくしゃする一件があって、そのせいで夜もろくろく眠れませんでした。
でも、結果オーライだったので、あーすっきり!の気分です。 "Believe your gut feeling"(自分の直感を信じろ)というけれど、まさにその通りにしてよかったと思います。 家庭訪問セラピーでは、まず最初に必ず患者さんの血圧、脈拍、体温、呼吸数を測って、セラピーに耐えられる状態かどうかを確認します。これは鉄則です! 昨日、一件嚥下評価がありまして、患者さんのいるBoard&Care(食事・介護つき高齢者施設)に向かいました。そして、患者さんに挨拶して血圧などを測り、患者さんの普段の数値と比べてみたところ、血圧と脈拍が普段より高い数値なのに気づきました。それに、患者さんの様子もなんかちょっとおかしいのです。初対面だから普段の様子はわからないけれど、でも「この患者さん、どこか具合悪いんじゃないか」と直感しました。 それで、そのことを施設長に伝えたところ、「そんなことはない。血圧も脈拍も標準範囲だし、別に普段と変わらない」と言い張り、まるでわたしが言いがかりをつけたような言い方をするので、かちんときてしまいました。喧嘩はしたくなかったけど、患者さんの健康管理はわたしたち医療関係者の責任なので、何を言われても引っ込むわけにはいきません。 この患者さんの普段の血圧は平均値が110/70なんですが、この日は140/90でした。もちろん、もともと血圧が高い人にとっては、この値は「標準範囲」といえるでしょうが、この患者さんにとっては明らかに高い値ですよね? それから、脈拍も普段の平均値は70前後なのに、この日はなんと94!これはどう考えてもいい状態ではありません。それなのに、施設長はわたしが考えすぎなんじゃないか、と言わんばかり。 そのうち、患者さんが震えだして、ジャケットを着せても震えが止まらず、これは絶対におかしいとますます思いました。それで病院に電話しようと思ったところ、タイミングよく看護師が来て、彼も「いつもと様子が違うから911しよう」と言ってくれて、それで施設長もしぶしぶ(納得しなかったのか、無言のまま)電話をして、患者さんは救急車で病院に運ばれていきました。 その段階では、施設長はたいしたことないとでも思ったようです。「午前中はごく普通にしていたんだよ。あなたが来てからおかしくなったんだよ」と、まるでわたしが何か変なことをしたような言い方をするので、これまたかちんかちん!と来てしまいました。血圧と脈拍のことをわたしが指摘したことで、彼は不愉快になったみたいです。それにしても大人気ない! 結局、嚥下評価は出来なかったので、そのことをレポートにまとめ、会社に提出しました。 そして今日、会社から知らされたのは、「患者さんが肺炎と極度の貧血(輸血が必要)のため入院した」とのこと。 直感を信じてよかった、と心底ほっとしました。施設長と喧嘩して気分が悪くなったけど、もしあのまま黙って引き下がっていたら、患者さんはどうなっていたんだろうと思うと、ぞ~っとします。 これからもこんなふうに理解のない人、患者さんのことを考えない人と出会うことがあるんだろうけど、患者さんのためなら何を言われてもひるまないぞ!という決意をしました。自分の直感を信じて!
バイリンガル・マルチリンガル環境で育つお子さんの語彙発達をみていると、面白いことに気づきます。
それは、家で使う語彙とセラピーや幼稚園・学校で使う語彙とが必ずしも一致しない、ということです。 考えてみればこれはごく当たり前なことなんです。 セラピーや幼稚園・学校では、そこでの活動に関する語彙を教えていきますね。たとえば、「一列に並びましょう」「かばんをロッカーにしまいましょう」「友達と手をつなぎましょう」といった指示は、幼稚園や学校では耳にしても、自分の家でお母さんお父さんに言われることはないですよね。逆に「歯をみがいてからパジャマに着替えよう」「寝る前に読む本を持っておいで」というのは、自分の家での活動で、学校ではないことです。 お子さんの言語環境が家では日本語のみ、学校では英語のみと、きれいに分かれているとします。そうしたら、上の例の場合、学校でしか聞かない指示は、英語でのみしかわからないし、逆に家でしか聞かない指示は、英語で言われてもちんぷんかんぷんですよね。 これと同じで、自分から使える語彙も、家や学校など、それぞれの環境で必要とされるものは、その環境で使われる言語で覚えていきます。ですから、スペイン語が母国語の子どものなかで、幼稚園で教える色の名前や形など英語では言えるのに、スペイン語では言えない、ということがよくあるわけです。 それから、これもまたスペイン語の例ですが、物によってはスペイン語では発音しにくいのか、英語のほうを先に覚えるというケースもあります。たとえば、ボールはスペイン語では「ペロッタ」なので、2~3歳の小さい子には、「ボール」のほうが発音しやすいのか、「ボール」とは言っても「ペロッタ」とは言わない子が多いのです。また、りんごを意味する「マンサナ」のかわりに「アップル」、卵を意味する「ウエボ」のかわりに「エッグ」など、英語の語彙のほうが発音しやすいものは、主言語がスペイン語であっても英語で覚えるというケースがよくあります。そして、これは決して悪いことではなく、むしろ物と名前が一致しているわけですから、「そうだね」と肯定してあげるべきことなんですね。 もちろん、家での会話が英語以外の言語ならば、そうした言葉も主言語で覚えてほしいと思うお父さんお母さんの気持ちもよくわかりますから、たとえば「アップル」といったら、「そうだね、アップルだね」といったん肯定したうえで、「マンサナ」とスペイン語の言葉もお手本として示してあげます。まるで同時通訳をしているような形になりますが、こうやって最初に入った言葉に別の言語の語彙を添えていく形で、バイリンガル・マルチリンガルの子の語彙を増やしていってあげましょう。せっかくりんごを見て正しく「アップル」と言えたのに、「違うよ。『マンサナ』だよ」と否定しないでください。これはスペイン語の例ですが、日本語でも同じです。色も、赤をみて「レッド」と答えられたら、それは正しい答えですから肯定してあげて、「そうだね」と褒めてあげて、それから日本語で「赤」とお手本を示してあげます。 バイリンガル・マルチリンガルの子の語彙発達は、モノリンガルの子とは違った発達段階をたどりますから、決してモノリンガルの子と比べないでください。なにか質問がありましたら、コメント欄に書いてくださいね。 カリフォルニアに長く住んでいる人の話では、春、特に4~5月はどんより曇った日が多いのだとか。それはちょっと残念。だって、「カリフォルニアの青い空」!ですもんね。
週末、家のあたりはまあまあ晴れているので(雲はちょこっとありますが)、大丈夫かな~と期待をかけて海まで運転していくと、あれあれ、雲がどんどん増えてきて、ビーチに到着した頃には空は雲ですっかり覆われていた、というパターンばかりです。家からビーチまでは車で30分の距離ですから、そんなに遠いわけではないのだけど。 平日のある日、家庭訪問セラピーの最初のお宅に向かう途中、電話が入りました。患者さんが急に具合が悪くなってこれから病院へ行くので、セラピーをキャンセルしてほしいとのこと。いつもなら、「うーん、次の患者さんまでの1時間半、どうやって暇つぶそうか」と悩むところですが、運よくこの患者さんのお家はビーチの近く!どうせここまで来たのだから、ビーチへ行っちゃえ!と思い立ち、出かけました。 この日も雲がちょっとあったのですが、ビーチは運よく青空が広がっていました!ラッキー!ただ、カメラを持っていなかったので、携帯のカメラでぱちり。ちょっと色や鮮明さが落ちますね、やっぱり。それでも、春の海、とーっても気持ちよかったです。 ![]() ![]() ![]() なんとも面白い鳴き声の鳥さん、なんという鳥なのかな? ![]() ビーチばたに咲いている可憐な黄色い花。 ![]() テキサスでもよく見かけたウチワサボテンの花。 ![]() 仕事がらみの失敗談は、話し始めたらきりがないほどたくさんあります。特に1~2年目は、何度も冷や汗をかいたり情けない思いをしました。でも、失敗を重ねたおかげで大事なことを学び、少しずつ成長しているような気がしています。もちろん、いつでも「初心忘れるべからず」ですが!
数々の失敗のなかでも一番ずっしり重いのが、「患者さんの気持ちに沿ったセラピーができなかった」という失敗です。 今まで関わった患者さんのほとんどは、わたしが新米で未熟、おまけにどこかの国からやってきた不思議なおばさんということをよく理解してくださって、そのおかげでわたしのほうがずいぶん支えられ、励まされてきました。本当に患者さんのおかげでここまで来られた、といっても過言ではありません。 それでも、たまには、わたしのアプローチの仕方が悪かったのか、セラピーがうまくいかなくなってしまった、ということもありました。 今思い起こしてみると、患者さんの気持ちを的確に汲み取れなかったわたしの力不足が原因だったようです。 患者さんのなかには、自分の障害を受け入れたくない・認めたくない、という気持ちが人一倍強く、できないことがあるのはわかっていても、それをみんなの前でさらけ出したくないと思う人もいます。そういう人は、「セラピーなんか要りません。わたしは自分でできますから」と反応することもあります。もちろん、脳損傷のため正しい判断ができなくなってしまい、そのために自分の障害についての認識が欠けている、という人もいます。でも、そうではなくて、自分の障害を自覚しているからこそ、余計にそれを人から指摘されたくない、という防御反応が強く出て、そのためにセラピーを拒否してしまう人もいるのです。 そういう人たちには、どんなふうにセラピーをしたらいいでしょう。 直球勝負は、もちろんいけません。わたしはそれで失敗しました。反省!効果が期待できるのは、変化球ですね。 たとえば、嚥下障害があるのに、「わたしは大丈夫。ちゃんと噛めるし飲み込むのも問題ないわよ」と言い続ける患者さん。が、彼女の息子さんと電話で話したときに、息子さんがどれほどお母さんの状況を心配しているかが伝わってきました。そこで、彼女にとって大事な大事な息子さんからのメッセージを利用!?させてもらいました。 「Aさん、息子さんがAさんのことをとても心配なさっています。この間息子さんとお話したときも、『母が誤嚥して肺炎にでもなったら大変だから、セラピーお願いします』ということでした。Aさんはとてもしっかりしている方だから、何でもご自身で出来て、素晴らしいですね!でも、噛んだり飲み込んだりというのは、自分の口の中やのどの機能は自分ではわからないから、わたしが外側から見て、あれ?と思ったら、Aさんのためにそのことをお話しますね。そうして、一緒にAさんにとって一番いい方法を考えてみましょうよ。」 そうしたら、「息子さんが心配している」というメッセージが効いたのか、最初の日はなかなか協力してくれなかったのに、この日はすんなりとセラピーに協力してくれて、とてもスムーズにできました。変化球をうまくキャッチしてくれたAさんに、感謝! Bさんは、脳卒中のため、重度のブローカ失語と発語失行があります。でも、理解力は比較的いいので、人の話はだいたいわかっています。それだけに、自分の言いたいことが伝えられず、とてももどかしい思いをしています。そのせいもあり、うつ病も患ってしまいました。 重度の発語失行の場合、AACを勧めます。でも、人によっては、絵カードなんて子どもじみていやだ、わたしはまた話せるようになりたいんだから、と思う人もいるでしょう。もちろん、そういう気持ちを言葉では表せないので、こちらのほうでその人の表情や態度からそうした気持ちを察するしかありません。 で、初日はどうもそんな印象をBさんから受けたので、2回目のセラピー時には、まず初めにきちんと説明しました。 「Bさんは、こちらの言っていることはよくわかっていますね。でも、自分の言いたいことがうまく言えず、もどかしさを感じているのですね。これはBさんだけでなく、脳卒中のため発語失行になった人はみな経験することなのです。みなさん、言いたいことはたくさんあるのに、それを言葉に出来なくて、苦しんでいます。頭の中の引き出しには、使える言葉がたくさん詰まっているのに、口の筋肉が言うことを聞いてくれないので、言葉にならないんですよね。そういう人たちのために作られたのが、この絵カードなんですよ。これを使って、コミュニケーションがはかれない不便さを解消するのが、セラピーの目的なんです。」 こう説明したら、Bさんの硬かった表情が緩み、セラピーの最後には笑顔まで見せてくれました。もちろん、絵カードを使ってのコミュニケーション訓練は簡単ではありませんが、それでも言葉だけに頼るコミュニケーションよりはずっとスムーズで、Bさんも自分のしたいこと・必要なことを絵を指差すことで相手に伝えられるとわかったことにより、セラピーに対するやる気も出てきたようです。 これからも試行錯誤が続きますが、こんなふうに一人一人の気持ちに沿ったセラピー、大量生産ではなくカスタム・フィットのセラピーを、心がけていきたいなと思います。 お子さんの言語発達において一番強力なサポーターは、お父さんとお母さんです!
わたしたちスピーチセラピストがお子さんと関われる時間は、週1~2回、1回1時間前後と、本当に短いものです。それに対して、お父さんとお母さんは、年中無休(!)でお子さんと接しているのですから、セラピー成功の鍵は、お父さんお母さんが握っているといっても、過言ではありません! スピーチセラピストの役目は、お子さんへの直接の働きかけだけでなく、お父さんとお母さんに「お家でできる支援方法」を指導・伝授することです。英語ではcaregiver education/trainingと表現します。アメリカでは、お子さんのニーズに合わせて、お父さんお母さんに向けたさまざまなトレーニングやワークショップがあちこちで開かれています。小児クリニックでも、そうしたワークショップのご案内をさしあげることがあります。それによって、「スピーチセラピーっていったい何をするの?」と疑問だらけだったお父さんお母さんも、少しずつ理解が深まり、同時にお家でお子さんを支援する方法も身についていきます。 こうしたアドバイスをすんなり受け入れていただけると、「よかった!ありがとう、お父さんお母さん!」と心の中で叫びますが、そうでない場合は、心底がっかりしてしまいます。生身の人間相手の仕事なので、仕方ないことかもしれませんが。 でも、わたし自身の経験をもとに自信をもっていえることは、お父さんお母さんがセラピストのアドバイスに耳を傾け、それをきちんとお家で実践してくださるときは、お子さんの発達にもプラスの効果が現れる、ということです。お母さんから「kayさんのセラピーのおかげです。ありがとうございます」と言われるたび、「いえ、お父さんお母さんのご協力があったからこその、お子さんの成長です。こちらこそ、ありがとうございます」とお話しています。 2歳半のとき、発語失行の疑いをもたれた男の子。単語がちょこちょこっと出てくるだけで、あとは舌をべろべろべーっと出したり引っ込めたりするだけの、不思議なおしゃべりばかりでした。でも、よくよくお父さんお母さんと話してみると、どうやらお二人はもともと「超」のつく早口さんで、ご夫婦の会話を聞いていると、わたしはめまいがしてきてしまいます(苦笑)。そこで、早口のご両親の会話を耳にしているこの子は、おとなのしゃべり方を真似しようとして、べろべろべーっとなってしまうことがわかりました。そこで、ご両親に「お子さんと話すときは、顔を見て、ゆっくりはっきり、を心がけてくださいね」とお願いすると、最初はう~ん、という感じであまり乗り気でなかったお二人ですが、少しずつ理解を示してくださるようになりました。そして、お二人が少しゆっくりめに、はっきり話すようになったころから、この子の発音が改善したのです! となると、この子は発語失行ではなく、お家での言語環境の影響で言葉が遅れていた、ということがわかりますね。 実は実は、こういう例が、結構あるのです。セラピーをはじめてみて数ヶ月後、あれ?うーん?と思うことがあったら、お父さんお母さんと納得いくまで話をしてみます。そこで、最初の言語評価ではわからなかったことがいくつか出てくると、それに応じて軌道修正を試み、同時にお父さんお母さんへもお家での支援方法をお話するようにしています。 今、とても模範的なご家族と関わっていて、お二人の熱心さに頭が下がる思いです。お父さんとお母さん、毎回のセラピー時にさしあげるアドバイスを、必ずお家で実践してくださいます。そして次回のセラピー時には、1週間の様子をお話くださり、それによってどの方法がその子に合っていたかがわかり、適切でなかったものは別のものに切り替えるなど、的確な判断がくだせるので、セラピストとしても助かっています。 セラピスト1人だけでは、お子さんの発達支援はできません。お父さんお母さんに強い味方になっていただいてこそ、セラピーの効果が期待できます。ご協力、よろしくお願いします!!
*今回の記事は2009年3月に書いた最初の記事を加筆修正したものです*
ついこの間生まれたばかりだと思った子が、最初の一歩を踏み出し、言葉らしきものも出てきました。子どもの成長を喜んだのもつかの間、「あれ、なんか発音がおかしいよ。何言っているのか、わからない」と、気になることが出てきたとします。 専門家に相談しようかどうか迷っているお父さん・お母さんに、判断の目安をいくつかお話ししましょう。 子どもの音韻発達上よくみられる発音の間違いに、音韻プロセスというものがあります。たとえば、「ボール」を「ボー」と言ったり、「スプーン」を「プーン」と言うのは、音節の省略。エレベーターをエベレーターと言うのは、音位転換。「だいじょうぶ」が「ぶあぶ」になるのは、同化。その他、硬・軟口蓋音の前方化、破裂音化など、いろんな種類があります。こういう音韻プロセスは、3歳未満の子にはあって当たり前。4歳ごろからだんだんと正しい発音が出来るようになってきます。 また、2歳代の子どもは、話し言葉の5~7割、3歳なら8割、初対面の人にも理解してもらえれば、標準な発達をたどっているといえるでしょう。 子どもの音声言語障害のなかで、発音に影響が出るのは、構音障害(articulation disorder)、音韻障害(phonological disorder)、ディサースリア(dysarthria)、発語失行(apraxia of speech)などです。 機能性構音障害は、器質的な問題はないのに特定の音がうまく発音できないというもので、たとえばカ行がタ行になってしまったり(「ひこうき」が「ひとうてぃ」になる)、ラ行がヤ行音で代用されたり(「ラムネ」が「ヤムネ」になる)、というものです。幼稚園児が先生を「しぇんしぇい」と呼んだり、机を「ちゅくえ」と言うのも、このタイプの障害です。これは、舌の位置や口の開き方など、発話に関わる筋肉の動かし方と関係があります。セラピーは、特定の音を出すときの舌の位置などを子どもに教え、苦手な音、たとえば「さ」を、単語の最初(さかな)、中(うさぎ)、最後(あさ)の位置で練習します。 音韻障害は、普通に発達していれば年齢とともに自然消滅するはずの音韻プロセスが(ほとんどのプロセスが4~5歳までになくなります)いつまでも残っているものです。これは構音障害と違って、特定の音の発音に問題があるのではなく、音韻認識に問題がある場合に生じます。ですから、ひとつひとつの音について練習するのではなく、音韻規則が理解できるようなセラピーメソッドを用います。 ディサースリアは、上位・下位運動ニューロンなど、神経系統の異常によって生じる障害です。発音(特に子音)が不明瞭だったり、話す速度が遅かったり、開鼻音(鼻咽腔閉鎖機能不全も含め)になったり、といった症状があります。ディサースリアは程度によって改善の度合いもさまざまで、重度の子の場合はAAC(拡大代替コミュニケーション)ツールが必要になることもあります。 発語失行は、発話に関わる運動プランおよびプログラミング段階の障害です。呼吸、発声、構音器官の筋運動には異常ないのですが、プロソディ(韻律)がおかしく、また発音上の間違いも一定しません。たとえば、「さかな」を「たかな」と言ったり、「たなな」と言ったり、そのつど間違い方が違ったりします。また、発語失行のある子は、言語上の遅れを伴うことも多いといわれています。発語失行も、デイサースリアーと同様に運動ニューロンの異常が原因で、重度の子はやはりAACが必要になってきます。 発語失行は年齢が低い時期(3歳未満)での診断はとても難しく、セラピーも一筋縄ではいきません。症状が発語失行のようでも、言語発達そのものが遅れていて、語彙数が少なかったり、いろんな言葉を耳にする機会が限られているせいで、音をうまく模倣できないということもあります。ですから、3歳未満の子の場合は、まず語彙数を増やして、いろんな音に接し、自分からも発音する機会をたくさん作ってあげることが大切です。
子どもへのスピーチセラピーをしていて、悩むのはお父さん・お母さんとのコミュニケーションです。これは、わたしだけでなく、同僚やSLPをしている友人もみんな感じていることなんです。
わたし自身2人の子どもを育ててきたので、親として子どものことを思う気持ち、痛いほどわかります!!だから余計に悩んでしまうこともあるんです。わたしが親の立場だったら、これは耳が痛いかもなあ、これは聞きたくないかもなあ・・・なんて考えて。 わたしたちは専門家として、お子さんの発達支援に一番良いと思われる方法を提供したい、と常に考えています。そのことをご理解いただければありがたいなと思います。 「ちょっと言葉の発達が遅いので」「発音がはっきりしないので」 こういった理由でスピーチセラピーを始めたけれど、どうもそれだけではなさそうだ、と感じることもあります。セラピストの直感というより、実際にやり取りをするなかで、表情、しぐさ、体の動かし方、反応の速さ・正確さなど、さまざまな角度からお子さんを観察して、あれ?と思うことが出てくると、それは無視できません。そこで、他の専門家(PT、OT、行動療法専門家、耳鼻科医、小児神経科医など)に相談したほうがいいと判断したら、そのことをご両親に伝えます。 お父さん・お母さんのなかには、とても熱心に勉強していらっしゃって、こちらからお話する前に、「うちの子は~~~なので、小児神経科を受診したほうがいいでしょうか」と相談されるご家族もいます。こんなふうにご家族の協力がすんなり得られると、専門家としてはおおいに助かります。でも、そうでないケースも多々あるわけで、実際わたしの同僚は「何度小児神経科受診を勧めても、理解してもらえない」と頭を抱えています。わたしたちの勧めることは、あくまでも「勧め」であって、強制力はないので、あとはご家族次第、ということになってしまいます。 どうして正しい診断が必要なのか、ということについて、次の例を考えてみましょう。 お子さんが咳をしています。熱もちょっとあるようです。食欲もあまりありません。 こんなときはどうしますか。 1~2日くらいなら様子を見て回復を待つ、というお父さん・お母さんも多いのではないでしょうか。わたしも、そのタイプです。 では、3日、4日たっても良くならない場合はどうでしょう。 「たぶん、ただの風邪だろう」と判断して、市販薬をのませ続けますか。 もしかしたら、風邪ではなく、気管支炎かもしれない。あるいは肺炎かもしれない。 風邪も、気管支炎も、肺炎も、症状は似ているけど、治療法は異なりますね。だから、診断を受けることによって適切な治療が行えて、回復も早い、というわけです。 スピーチセラピーもこれと同じで、音声言語障害の背後にある原因をつきとめる(正しい診断を受ける)ことによって、その子に一番合ったセラピー方法が確立できるわけですから、診断名がどうして大事なのか、おわかりいただけますでしょうか。 診断名がつくと、一生レッテルを貼られるようで嫌だ。 という声も聞きます。それも、よくわかります。周囲にはまだまだ偏見に満ちた理解のない人々が、残念ながらいます。そういう人たちに余計なことを言われたくない、というのは、わたしだって同じです。だから、私たち専門家は決して機械的に「~~~科を受診してください」とアドバイスしているのではなく、お子さんのために、お子さんの発達支援に一番いい方法を見つけたい、という気持ちから、アドバイスしている、ということを、ぜひご理解いただきたいと思います。 さまざまな専門家とご両親がチームを組んで、お子さんの発達を支援していくためには、強力なチームワークが必要ですね。そんなふうにお考えいただければ、幸いです。
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